「捨てられる命」を地域を救う資源へ。若き飲食コンサルタントの熊本ジビエ再生

「捨てられる命」を地域を救う資源へ。若きコンサルタントの熊本ジビエ再生 食品

データで飲食店の課題を解決してきたコンサルタント・吉田そう樹さんが、熊本の山に入り、ジビエ事業に取り組み始めたのは2024年のこと。

全国で年間188億円にものぼる野生鳥獣による農作物被害と、捕獲された命の約9割が「ゴミ」として廃棄されている現状を知り、「これは食文化の危機だ」と感じたことがきっかけでした。

ロジカルな戦略と、地域の人々との泥臭い対話を重ねながら、捨てられてきた命を地域の資源へと変えていく挑戦が続いています。

冷蔵庫の食材を1g単位で計量する—数字へのこだわりが生んだ、仲間を守る経営

飲食店経営の世界では、「勘と経験」という言葉がよく聞かれます。

しかし、吉田そう樹さんのスタイルは、少し異なります。

自他ともに認める「データオタク」である吉田さんが数字を追いかける理由は、冷徹な計算のためではありませんでした。

「1gの重み」は、店を守るための覚悟

千葉県で焼鳥店や焼肉店の経営に奔走していた頃、吉田さんが徹底していたのが「数値化」へのこだわりです。

厨房の冷蔵庫内にスケールを設置し、食材の減少量をリアルタイムで計測。仕入れ価格やレシピと緻密に突き合わせることで、一円単位の利益を管理していました。

さらにそのデータ分析は、在庫管理の枠を超えて顧客心理にまで及びます。

15年以上前から「カップルで来店したお客様が次に頼むメニューの傾向」を分析し、お客様が喜ぶ一皿を科学的に導き出していたのです。

「飲食については素人だったから、データに頼るしかなかったんです」

当時を振り返る吉田さん。その徹底したデータ経営こそが、コロナ禍という未曾有の嵐の中でも社員を守り抜く、揺るぎない経営基盤となっていました。

涙が出るほど「頑張っている人」を救いたい

そんな吉田さんの心を動かしたのは、コロナ禍で見た友人の姿でした。誰よりも一生懸命に店を愛していた仲間が、廃業に追い込まれていくのを目の当たりにしたのです。

「頑張っていないから潰れるんじゃない。みんな頑張り方がわからなくて、暗闇の中で戦っているんだ」

その悔しさが、吉田さんを「武者修行」へと突き動かします。財務や補助金の知識という「武器」を仲間に届けるために、知人のコンサルタント会社で3年間、専門知識を一から叩き込みました。

現場で泥臭く頑張る人たちが、正当に報われる世界をつくるために。

コンサルタント、山へ入る——ジビエとの予期せぬ出会い

ジビエ事業に勤しむ吉田そう樹さん

飲食店コンサルタントとして「数字」と「現場」をつなぐ修行を続けていた吉田さんに、ある転機が訪れます。

神奈川県のジビエ関連企業から「経営を立て直してほしい」という依頼でした。

当時、ジビエについては全くの素人だった吉田さん。しかしそこで取った行動は、一般的なコンサルタントの常識を超えるものでした。

現場を知らずに、数字は語れない

ジビエのことは何も知らないけれど、やるなら徹底的に現場を知らなければ始まらない

そう考えた吉田さんは、コンサルティングを引き受けるにあたり、自ら狩猟免許を取得します。

スーツを脱ぎ、東京や神奈川の山へ足を踏み入れ、自ら獲物を追う。そんな泥臭い現場から、吉田さんのジビエ事業はスタートしました。

12年の飲食経営で培った「調理」の視点、新たに得た「猟師」としての肌感覚、そしてコンサルタントとしての「数字」。

三つの経験が吉田さんの中で溶け合い、「現場で何が起きているかがわかれば、解決すべき数字も見えてくる」という確信へと変わっていきました。

命の循環を「経営課題」として捉え直す

ジビエ

山に入り、自らの手で命と向き合う中で、吉田さんはある現実を目の当たりにします。

多くの野生鳥獣が捕獲されながら、そのほとんどが有効活用されずに廃棄されているという事実でした。

日本全体で捕獲されるシカやイノシシは年間約138万頭。しかし食肉として活用されるのはわずか10%程度で、残りの90%は多額の公金をかけて埋設・焼却処分されています。

冷蔵庫の食材を1g単位で大切にしてきた吉田さんにとって、この巨大な「未利用資源」の放置は、見過ごせない課題でした。

コロナ禍で頑張り方がわからない仲間を救えなかった悔しさと、目の前で命がゴミとして捨てられていく現実。

この二つが、吉田さんの中で「ジビエ事業」というひとつの使命としてつながりました。

「この歪な構造を、正しいデータ経営で書き換えれば、新しい価値が生まれるはずだ」

一人のコンサルタントの心の中に、日本の食の未来を切り拓く火が灯った瞬間でした。

【参考】

捕獲数及び被害等の状況 || 野生鳥獣の保護及び管理[環境省]

なぜ縁もゆかりもない「熊本」へ拠点を移したのか

熊本へ拠点を移した理由

コンサルタントとして独立した吉田さんが次の主戦場に選んだのは、出身の千葉でも拠点にしていた東京でもなく、熊本でした。

ここでも、データオタクらしい合理的な判断が移住の決め手となります。

移動コストを削り、対面の価値を最大化する

移住のきっかけは、経営者コミュニティでの活動を通じて熊本の案件が増えていったことでした。

東京のクライアントの多くはオンラインでの打ち合わせを許容していましたが、熊本の現場は実際に足を運び、ともに汗をかくサポートを必要としていました。

「対面が必要な現場が熊本に集中しているなら、そこへ拠点を移すのが最も合理的だ」

移動時間を最小化し、その分を一秒でも長く現場のために使う。徹底して無駄を省くこの思考こそが、移住という大きな決断の背景にありました。

6.8億円の損失。データが告げる「無視できない不具合」

ジビエ肉(鹿肉)

熊本での生活が始まると、吉田さんの目にひとつのデータが飛び込んできます。

熊本県は全国でも指折りの野生鳥獣被害県であり、年間約6.8億円(令和6年度)もの農作物が被害を受けているという事実でした。北海道、福岡と並び、全国ワースト3位を争う水準です。

「キャベツ一個が食べられれば、農家にとっては出荷できたはずの100円が損失になる。それが積み重なって6.8億円分もの食料が、本来の行き先を失っているんです」

冷蔵庫の食材を1g単位で管理し、1円の重みを知る吉田さんにとって、この現実はあまりにも不条理な経営課題に映りました。

さらに、命の扱われ方も見過ごせません。捕獲されたシカやイノシシのうちジビエとして活用されるのはわずか10%程度で、残りの90%は廃棄されています。飲食店が食材高騰に苦しむ一方で、膨大な命が捨てられている。

「この構造的な課題を解決できれば、農家も飲食店も消費者も、みんなが喜べる仕組みがつくれるはずだ」

熊本の山に潜む「負のデータ」を「正の資産」へと変える挑戦が、本格的に動き出しました。

【参考】熊本県│令和6年度野生鳥獣による農作物被害状況調査結果について

「1kg=1万円」の価値を創り出す——ジビエを稼げる事業に変える戦略

熊本の山で起きている「命がゴミとして捨てられる」現実を解決するために、吉田さんは2024年、熊本でジビエ事業を本格的にスタートさせました。

しかし当初は、卸売業としての壁に直面します。高級店向けジビエの卸値は1kgあたり3,000円からと、和牛にも匹敵する価格帯。

ジビエの価値がまだ十分に認知されていない中での営業は、データに強い吉田さんをもってしても、容易ではありませんでした。

キッチンカーで見出した「1キロ1万円」の勝算

ジビエのキッチンカー

「認知がないなら、自分たちでその価値を直接伝えればいい」

そこで吉田さんが打った次の一手が、キッチンカーによる自社販売でした。

ミシュラン掲載のレストランにも卸している最高品質のジビエを、500円の串焼きとして提供する。一見シンプルに見えるこの戦略には、緻密な計算が隠されていました。

50gの串一本を500円で販売すると、1kgあたりの売上は1万円にのぼります。卸売だけでは難しかった利益率を、「体験」を売ることで大きく改善させたのです。

「廃棄部位」を、愛犬を救う宝物へ変える

吉田さんの「もったいない」を解決する姿勢は、食肉だけにとどまりません。注目したのは、これまで廃棄されていた骨やスジなどの部位でした。

これらを活用し、自社でペットフードの製造を始めます。

犬の約3分の1が鶏肉などのアレルギーを抱えているといわれる中、鹿肉は低脂質・高タンパクで鉄分も豊富。

本来なら捨てられていた部位に手を加えることで、市場価格の3分の1から半額という価格で、高品質なフードを届けられるようになりました。

ミシュランの名店が認める猟師が解体した、安心・安全な肉を、家族の一員である犬に毎日食べさせられる価格で提供する。

捨てられるはずだった命の一部が、データとアイデアによって、飼い主にも犬にも、そして事業にも価値をもたらす資源へと生まれ変わりました。

共存のゴールを探して。命とビジネスが交差する未来

吉田そう樹さん

データと合理性を武器に、熊本でジビエの価値を再定義し続ける吉田さん。

しかしその原動力の根底にあるのは、言葉にしづらい「命」への複雑な感情でした。

憎くて、一番大好きな存在

インタビューの終盤、「あなたにとってジビエとは?」と問いかけると、吉田さんは少し考えてからこう答えました。

「まず、憎いんですよ。大嫌いなんです」

農家が丹精込めて育てた作物を荒らし、生活を脅かす「害獣」としての側面を、誰よりも現場で見てきたからこその言葉です。

人間と動物は、放っておけばパワーバランスが崩れ、手放しには共存できない存在でもあります。

しかし吉田さんは、こう続けます。

「でも、一番好きなんですよね」

動物が好きだからこそ、残酷なだけの駆除で終わらせたくない。命を奪うのであれば、その重みを「美味しさ」や「健康を支える糧」として、余すところなく誰かへ届けたい。

「憎いけれど、大好き」という矛盾を抱えながら、人間と動物が、地域社会と自然が健やかに共存できる答えを、吉田さんは今も探し続けています。

「稼げるモデル」を、次世代の若者たちへ

広まりつつあるジビエ料理

吉田さんの夢は、自分一人で完結するものではありません。その視線は、すでに全国の若い仲間たちへと向けられています。

「僕と同じ考えを持つ若手が運営する、地域に根ざした解体施設を全国に作りたいんです」

地域を助けたい情熱はあっても、売り方がわからない。施設を作る資金がない。そんな若者たちに、自らが培ってきた「データで稼ぐノウハウ」をすべて伝えていきたいと吉田さんは言います。

実際にスタッフの中には、東京から来て技術を学び、自ら事業を立ち上げようとしている若者もいます。

「彼らがしっかり儲かり、地域を助け、農家さんが報われる。その結果として、国民の皆さんが野菜を安定して食べられる世の中を作りたい」

コンサルタントとしての集大成は、ジビエを通じて日本の食文化そのものを守り抜くことにある——。

熊本の山から始まったこの挑戦が、日本の食卓をもっと豊かな場所へと変えていく日も、そう遠くはないかもしれません。

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