「お金の悩みなんてものはない」
お金の相談を受けるファイナンシャルプランナーが、そう言います。FP office つむぎの田中景子(たなかけいこ)さん。
新人時代のお客様とは17年経ったいまも付き合いが続いています。2025年11月に独立しました。
相談に来る人が抱えているのは、たいていお金そのものの悩みではない。夫婦の考え方の違い、キャリアへの不安、子育ての大変さ——そうした「別の悩み」がお金の顔をしてやってくる、と田中さんは言います。
だから田中さんは心理学を学び、益城町で子育て世代向けのセミナーを続けています。
ほぼ無償のその活動の根っこには、自分自身が「働きながらの子育てでとてつもなく余裕がなかった」という経験があります。
新卒で入った金融、きっかけはリーマンショック

田中さんが金融の世界に入ったのは、新卒で生命保険会社に就職したことがきっかけでした。ただ、もともと志したのは金融ではありません。
大学は北九州市立大学国際関係学部外国語学科。旅行会社やホテルを中心に就職活動をしていました。ところが、そこにリーマンショックが重なります。
内定取り消しや採用枠の縮小が相次ぎ、志望していた業界の求人がほとんどなくなりました。
そこで就職先の条件を広げることに。ただ次の条件は譲れませんでした。
- 実家のある阿蘇を出られること
- 一人暮らしができる給料がもらえること
その条件に当てはまり採用をもらえたのが生命保険会社でした。
「別に何か燃えるきっかけがあったわけじゃなくて」
金融の知識は、入社してから身につけたものです。就職活動が四年生の早い時期に終わったため、そこからFPの資格を取る勉強を始めました。
初契約のお客様に、ミスで怒られた
新入社員の田中さんは、営業として現場に出ます。強く印象に残っているのは、初めて契約に至ったお客様のことでした。
「新入社員で営業に行った先のお客様で、初めてご契約に至ったっていうお客様に、ミスでたくさん怒られた」
そのとき怒ったお客様は、17年経ったいまも田中さんのお客様であり続けています。
「今の私は多分、昔の私とは全く違う私だったんですけど、それも含めて私の変化にこう対応してくださる。新人感丸出しで来たと思うんで、大目に見てくれたんだと思います。」
自分の成長ごと受け止めてもらえる仕事——その最初の経験が、いまの田中さんの土台にあります。
もっとできるんじゃない?13年間のモヤモヤ

生命保険会社では13年間働き、二度の育休も取得しました。会社への感謝を口にしながらも、田中さんの中には長くくすぶるものがありました。
「いい仕事だなって思う反面、もっとできるんじゃない?ってお客さんのための仕事になってるかな?ってずっとモヤモヤしてて」
その違和感を、13年のあいだ試行錯誤で解決しようとしてました。しかし、答えは出ませんでした。
「この場所にいてはそのモヤモヤは解決できないかもと思って」
背中を押したのは、二人目の出産でした。
「もう子供産まないって決めて、だったらちょっと会社員じゃなくてもいいかもね」
「育休二人分取らせてもらって、たくさんの経験を積ませてもらい。ほんと感謝しかない。と思って辞めた」
退社後は別の会社で3年間会社員として働き、2025年11月に独立します。
会社のWINとお客様のWINが、バチッと重ならない
長年のモヤモヤの正体を、田中さんは金融業界の構造に見ていました。
「お客様のWINと、会社のWINが、バチッと重ならないことがあるなと会社の中にいると思う」
どんな仕事にもある折り合いのつかなさ。それでも、独立したいまは手応えが違うといいます。
「自分で仕事のやり方を選べる自由さがあるから、わたしがなんか違うと思えば、違う手段をとれることが手ごたえに繋がっている」
一人だから、ミスが怖い
独立から半年。不安がなくなったわけではありません。むしろ、会社員時代にはなかった種類の怖さがあります。
「全部一人でやってるのでミスが怖い。チェックをしてくれる人がいないし、やらかさないかなってヒヤヒヤしてる」
収支のバランスも、まだ手探りの真っ最中です。
「労働と利益のバランスがまだ手探りの状態。お客様の利益と自分の利益をしっかり両立できる状態を作っていきたい」
子育てとの両立では、子供の体調に働き方が左右されることが一番の困難だといいます。昨年は、子供が1ヶ月ほど熱の下がらないマイコプラズマ肺炎にかかりました。
「親としては子供が心配っていう気持ちと、社会人としては1ヶ月も何も動けてないっていう焦り。そのときはお客様にもごめんなさい、ごめんなさいってずっと言ってました」
お金の悩みは、お金の悩みじゃない

田中さんの相談スタイルを象徴する言葉があります。
「お金の悩みっていうのは別の悩みだっていう」
お金の相談に来る人の多くは、実はお金そのものではなく、その裏にある別の何かに悩んでいる。田中さんはそう考えています。
住宅ローンの相談に来た、ある夫婦
たとえば、住宅ローンの相談に夫婦で訪れたケースがありました。話を聞いていくと、悩みの根っこはローンの額そのものではありませんでした。
夫は素敵な家を建てたい。妻は、ペアローンを組めば自分がずっとフルタイムで働き続けることになるのが怖い——子育てをしながらフルタイムで働くことへの不安でした。
「ローンが正直六千万、六千二百万だろうが、月々の生活に及ぼす影響は限られている」
数字の差はわずかでも、そこで足踏みする理由は別のところにある。だから田中さんは、こう考えながら話を聞きます。
「その方の本当に解決したい悩みは何なんだろうって思いながら話を聞くようにしています」
そのために、いまは心理学の勉強も続けています。
「お客様の本当の悩みを探るのに必要だなと思ってます」
「不明なところがない」——自分の家計との向き合い方
田中さん自身は「やりくり上手」ではないと言います。失敗談もあります。
出産後、骨盤矯正に高額を払ったものの、結局通わなかった。理由は、施術中に赤ちゃんが横で泣いている状況に耐えられなかったからでした。
「もったいないけどもう行けない!と思って行かなかった」
車もよくこすってしまい、修理代がかさむこともあるといいます。
それでもお金の使い方に後悔は少ない。その理由を、田中さんはこう説明します。
「日々精査しているからでしょうか。不明なところがない。それだけ」
お金の使い方を毎月見ていると、自分が「モヤッとする」支出も見えてくる。田中さんの場合、それは子供に炭酸飲料を買うお金でした。
「体を壊すものにお金を使っている(気がする)。それは私にとって(使いたい)お金の使い方じゃないんだって認識すること、すごい大事だなと思ってるんです」
結局、根本はいつも「収支」
相談に来るのは、子育て世代の母親だけではありません。法人の相談もあります。
悩みは多種多様——住宅ローン・教育費・投資の始め方。それでも、たどり着く先はいつも同じだといいます。
「結果たどり着くところはやっぱり収支がしっかり把握できてないこと。結局いろんな悩みの根本が収支管理が不透明なところにあるんです。」
収支を明らかにすることは、不安の性質そのものを変えると田中さんは言います。
「不明瞭な時って多分根拠のない不安が頭の中にずっとある感じなんですよ。明らかにすれば、根拠ある不安になる。やることが明確になると、不安ってちょっと減るかなって」
相談の最初に、田中さんは必ずこう尋ねます。この相談で一番解決したいことは何か。解決した後、どんな状態になっていたいか。
「不安が減りましたって言われた時はすごい、あ、よかったって思います。それが私の価値提供だと思うので」
子育て世代の”余裕”をつくりたい

田中さんは益城町で、子育て世代・女性向けのセミナーを2年続けています。ほぼ無償の活動です。その理由は、自分自身の経験に根ざしていました。
「子育てしてる人の余裕創出に貢献したいと思っています。自分が仕事をしながらの子育てでとてつもなく余裕がなかったから」
子供の体調不良に振り回される日々を、田中さんは「受け入れられていない」と言います。
「なんでこんなに働きながら子育てしづらい世の中なんだ!とずっと思ってて」
地域に夕方でも子供が出入りできる施設があればいい——そう思っても、自分の力だけではどうにもならない。その中で自分にできることを考えた先が、自分の仕事でした。
自分の仕事で子育て世代の応援をしよう
「生活のゆとりがあればお金で解決できることたくさんあります。その生活のゆとりを子育て世代の人に生み出してもらえる仕事、バリューを出せたらなと思うんです。」
みんなが泣いた「神回」
2年の活動の中で、田中さんが「神回」と呼ぶ会があります。いろんな世代が集まったその日、田中さんは自分が大事にしているお金と時間の使い方について話しました。
「子供と絵本を読むための絵本を買うお金と、絵本を読む時間っていうのは、すごい私にとって尊い時間。寝る前に絵本を読んで、幸せって思って寝るのが最高に尊い」
その話をきっかけに、参加者もそれぞれの大切なものを思い出し、涙する人が続いたといいます。
「子どもが小さいころを思い出させてもらった、というか。あのとき大変だったんだけど、大切な時間だったんだなと皆さんが思い出されたようです。」
安心できると思ったら、相談すればいい
AIやオンラインを使えば、仕事は熊本でなくてもできます。それでも田中さんが熊本に拠点を置くのは、身近な人の役に立ちたいという思いからでした。
「熊本は住みよいし、自然も多いし。まずは自分の本当に身近にいる人に役に立って、仕事で役に立てれば最高だなって思ってるんです。友達がなんか保険のことで悩んで相談してくれるとかもすごく嬉しい」
最後に、お金のことを相談できずにいる人へ、言葉をもらいました。田中さんはまず、相談する側の怖さを認めます。
「正直この世の中で安心するのは難しいなと思う。怪しいものがたくさんあるから。」
だからこそ、安心してもらえる発信をしていくのは自分たちの責任だと言います。
「安心できるまでちゃんとリサーチしてもらえたらいい。そして安心できると思ったら、私に相談してほしいなと思っています。」
お金の悩みは、お金の悩みじゃない。田中さんにとって相談の入り口は、数字ではなく、一人ひとりの生活そのものです。
「生活のゆとりがあればお金で解決できることたくさんある。だからその余裕を、子育て世代の人に生み出してもらえる仕事がしたい」
「お金の悩みなんてものはない。お金はただの道具だから」——そう言い切るFPのもとに、今日も相談が届いています。
FP Office つむぎの基本情報

| 住所 | 〒862-0913 熊本県熊本市東区尾ノ上4丁目11-251 |
| メールアドレス | k-tanaka@fpoffice-tumugi.com |
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