「薬局に足を運ぶ必要がなくなる日」を目指して ひのくに薬局の新たな挑戦

「薬局に足を運ぶ必要がなくなる日」を目指して ひのくに薬局の新たな挑戦 医療・福祉

熊本市新町に、一風変わった薬局があります。棚には新鮮な野菜が並び、2階にはレンタルスペース。

一見、薬局とは思えないその空間には、病院に依存しない薬局を熊本の地で実現しようとする、オーナー中村さんの揺るぎないビジョンが詰まっていました。

【現状】病院の経営に命運を握られる、薬局の危うい構造

日本の多くの街で見かける薬局の姿。その多くは、大きな病院のすぐ隣や目の前に位置する「門前薬局」です。

患者さんが診察を終えてすぐに立ち寄れるという立地の便利さは、長年この業界のスタンダードとされてきました。

しかし中村さんは、この「当たり前」の構造に、強い危機感を抱いています。

「門前薬局」という依存モデルの危うさ

門前薬局の最大の特徴は、特定の医療機関からの処方箋が集中することです。

一見、安定したビジネスモデルに見えますが、裏を返せば「売上が横の病院に完全に依存している」という、極めて脆弱な構造でもあります。

普通は薬局を建てた瞬間から儲かるんです。横に病院があるから。でも、もしその病院が経営難に陥ったり、閉院したりすれば、薬局も共倒れになってしまう

実際、近隣の皮膚科が経営難になった際に、隣接する薬局も閉まった事例があると、中村さんはその構造上の問題を指摘します。

病院がなければ成り立たない経営は、地域医療の継続性という観点からも、大きなリスクを孕んでいるのです。

国の医療政策としても特定の医療機関への依存(集中率)が高い門前薬局から、地域全体の医療を支える「かかりつけ薬局」や「地域連携薬局」への移行を推進しています。
【参考】厚生労働省│令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】

集客努力の欠如への危機感

病院の横にあることで自動的に患者が訪れる環境は、薬局から「選ばれるための努力」を奪ってきました。

「病院の横にあれば集客の努力がいらない。でも、それは経営として健全ではありません」

ひのくに薬局が、病院から距離のある「面(めん)対応」の立地をあえて選び、実験店舗としてスタートしたのは、この「依存」を断ち切るためです。

特定の病院からの処方箋を待つのではなく、「どうすればわざわざひのくに薬局まで来てくれるのか」を死ぬ気で考えること。

その思考のプロセスこそが、これからの薬局に不可欠なものだと、中村さんは考えています。

面(めん)薬局という言葉への違和感

業界では、病院の横に位置しない薬局を「面(めん)薬局」と呼びます。しかし、中村さんはこの言葉に、拭いきれない違和感を覚えています。

「SNSなどを見ていると『面薬(めんやく)(面薬局)』という言葉をよく目にしますが、これは特定の病院が横にないという意味で使われる、最近できたあまり良くない言葉だと思っています。」

病院を基準にして「近い(処方箋の集中率が高い門前薬局)」か「近くない(処方箋の集中率が低い面薬局)」かで薬局を定義すること自体が、病院中心の考え方から抜け出せていない証拠ではないか――中村さんはそう感じています。

ひのくに薬局が目指すのは、病院の有無で分類される場所ではありません。街に溶け込み、住民が自発的に相談に訪れる、かつての日本にあった「街の薬局」の姿なのです。

ひのくに薬局が目指すのは、対話と信頼が息づく「昭和の薬局」

ひのくに薬局外観

ひのくに薬局の店内に一歩足を踏み入れると、そこには一般的な調剤薬局のイメージとはかけ離れた光景が広がっています。 

ひのくに薬局に並ぶ野菜や果物
ひのくに薬局に並ぶ野菜や果物
防災食品のラインナップも豊富

棚には新鮮な野菜や果物、防災食品が並び、2階にはレンタルスペースもあります。

2階にはレンタルスペースもあります

将来は、このレンタルスペースの一角に、寺子屋のような空間を作る予定だといいます。 

一見、薬局の本業とは無関係に見えるこうした取り組みの裏側には、中村さんの緻密な戦略と、揺るぎないビジョンがあります。

原点回帰のビジョン

中村さんが掲げるのは、戦後の昭和の時代まで当たり前に存在していた薬局の姿への「原点回帰」です 。

「院外処方箋の仕組みが普及する前、街の薬局は単に薬を受け取るだけの場所ではありませんでした。体調が悪ければまず相談に行き、ついでにトイレットペーパーや栄養ドリンクを買って帰る。そんな街のよろず相談所のような存在だったんです」 

厚生労働省も今、こうした「門前」から「地域」に根ざした薬局への転換を求めています 。

ひのくに薬局は、最新のテクノロジーを活用しながらも、その本質においては古き良き「街の薬局」を熊本の地で取り戻そうとしているのです 。

平成27年に厚生労働省が作成した「患者のための薬局ビジョン」では、かかりつけ 薬剤師・薬局の機能の推進、対物中心の業務から対人中心の業務へのシフトを図り、対人業務の強化や医療機関等 との地域連携等を実現するよう求めています。
【参考】厚生労働省│地域における薬局・薬剤師のあり方について

「動機づけ」のための商品ラインナップ

ひのくに薬局のラインナップ

特定の病院の横にないひのくに薬局にとって、最大の課題は「いかにして処方箋がない時にも足を運んでもらうか」という動機づけです。

「処方箋は、薬局に行く最大の理由です。でもそれがないなら、別の行く理由を作らなければならない」

その答えが、野菜の販売やレンタルスペース、寺子屋といった多角的なサービス。

利益度外視で安く提供される野菜や、子どもたちが夜遅くまで宿題をこなせる自習室(サービス開始未定)は、住民との接点を生み出すための大切な入り口です。

こうした場所に惹かれて訪れた人々が、「あ、ここは薬局だったんだ」と気づき、いつか処方箋が必要になった時に「あの人のいる薬局にお願いしよう」と思い出してくれる―。

中村さんが狙うのは、そんな長い時間をかけた信頼関係の構築です。

なぜ「熊本市新町」だったのか? データが示す可能性

ひのくに薬局が、特定の病院に隣接しないこの場所をあえて選んだのには、単なる偶然ではない緻密な計算がありました。

中村さんは、熊本市新町という土地を「日本の未来を占うための、またとない実験場」だと捉えています。

新町の特殊な人口動態

新町というエリアには、約5,000人の住民が暮らしています。特筆すべきは、その多様性です。

古くからの情緒ある町並みに住み続ける方々、新しく建ったマンションに移り住んだ新しい住民まで、多様な経済層がこの狭い圏域に混在しています。

「ここなら全てのニーズの調査ができる」

 これほどまでに属性の異なる人々が共生している地域は全国的にも珍しく、新しいサービスへの反応を確かめるフィールドとして、これ以上の場所はないと中村さんは考えています。

未来への足掛かりとしての「実験店舗」

ひのくに薬局は、単に一店舗の繁盛を目指しているわけではありません。中村さんの真の目的は、新町での実験を成功させ、そのノウハウを「医療困窮地域」へと還元することにあります。

具体的には、三角地区(みすみ)や離島である湯島といった、病院不足に悩む僻地医療への展開を見据えています。

「病院がない地区では、薬局単体では経営が成り立たず、食べていけません。だからこそ、まずここで『病院に依存しない自立したモデル』を完成させ、成功事例を作る必要があるんです」

新町での挑戦は、熊本全域、さらには日本の僻地医療を救うための、壮大な「実験」の第一歩なのです。

成功しても、失敗しても。覚悟の上の実験

ただ、中村さんは夢だけを語る人ではありません。

「思ったより処方箋が来ていないので、すごく焦っているというのが本音です」

銀行への融資説明では複数の医療機関との連携を想定し収支計画を組んでいました。しかし開業後の現実は、当初描いたシナリオとは異なる展開を見せています。

そのため、周囲からも「うまくいくの?」という心配の声が届きます。

それでも中村さんは、この状況を「実験の途中」として受け止めています。

成功だけが目的ではない。もし思い描いたモデルが成り立たなかったとしても、「なぜ無理だったのかという構造と仕組みを、論文のように国へ出したい」とも言います。

熊本での挑戦は、成功しても失敗しても、日本の医療政策へのフィードバックになる――そういう覚悟の上に、この実験店舗は立っています。

経営を支える戦略的キーポイント「オンライン診療・処方」

将来的に薬局に人が来ないのが理想」―中村さんはそう言います。その真意を実現するための強力な武器が、オンライン診療とテクノロジーの活用です。

単なる効率化ではなく、患者さんの生活の質を大きく向上させるための、戦略的な選択です。

待ち時間という「人生の損失」をなくす

多くの人が薬局に対して抱く最大の不満は、診察後の「待ち時間」です。

「自分の10分、20分が自分の薬のために待っているならまだいい。でも、冷静に考えたら自分と関係ない人の待ち時間で自分の人生を食っているようなものなんです」

ひのくに薬局では、LINEによる処方箋送信を推奨しています。病院を出てすぐに写真を送れば、薬局に到着する頃には準備が整っている。

あるいは、出来上がり次第連絡をもらってから取りに行く。

この導線を整えることで、患者さんは貴重な時間を「待ち時間」として浪費することなく、自分の人生のために使えるようになります。

オンライン診療×宅配の利便性

小さなお子さんを持つ親御さんにとって、病院への受診は一大イベントです。

「熱があるだけなのに、病院に連れて行ったら別の病気をもらってしまうのではないか」という二次感染への不安も尽きません。

ひのくに薬局が提案するのは、熊本ではまだ導入(活用)事例の少ない「オンライン診療」と「薬の宅配・郵送」の組み合わせです。

自宅でスマホを通じて診察を受け、処方箋データが薬局へ送られ、薬が自宅に届く。そんな仕組みです。

「例えば、花粉症やニキビの再診など、診察自体は数分で終わるもの。そのためだけに往復の時間と待ち時間をかける必要はありません」

小児科が遠い地域や、多忙な現役世代にとって、こうした仕組みはもはや贅沢ではなく、必須のインフラとなりつつあります。

継続的なの家族かかりつけ

ひのくに薬局の経営モデルは、一過性の「処方箋の受け取り」ではなく、携帯キャリアの契約に近い「継続的な関係性」を目指しています。

「一家族がうちを信頼して使い続けてくれれば安定した基盤になります」

どの病院にかかっても、処方箋はまずLINEでひのくに薬局へ送る。家族全員の薬歴を一箇所で管理し、準備ができれば連絡が来たり、自宅に届いたりする。

一度この圧倒的な利便性と信頼を体験すれば、わざわざ病院横の薬局で待つ理由がなくなります。

「最後は処方箋をこの薬局にお願いしよう、と思ってもらうこと。それがゴールです」

デジタルを入り口に、家族の健康を末永く見守る――それがひのくに薬局の描く、新しい「かかりつけ」の形です。

自分に合った薬局を、自分で選ぶ

ひのくに薬局外観

「薬局に人が来ないのが理想」という言葉の真意は、誰もが処方箋のために貴重な時間を費やすことなく、自分の人生を謳歌できる社会への願いにほかなりません。

薬局は単に薬を受け取るだけの場所ではなく、健康への不安や専門的なアドバイスが必要な時にだけ頼れる「街の健康相談所」―それがひのくに薬局の目指す姿です。

そのビジョンは、医療の枠を超えて広がっています。子どもたちが宿題を持ち寄る「寺子屋」や、地域交流の場となるレンタルスペースを通じて、新町のコミュニティに新たな活力を生み出そうとしています。

ひのくに薬局では、LINEでの処方箋受付を行っています。お手元の処方箋をスマートフォンで撮影して送るだけで、お薬の準備ができ次第ご連絡します。

つながる薬局のメニュー画面

まずはQRコードからLINE友だち登録を。あなたの「自由な時間」を取り戻す、最初の一歩です。

また、ひのくに薬局では、在宅医療・配達などのサービスも行っています。条件を満たせば、自宅で薬を受け取れますのでぜひご相談ください。

ひのくに薬局 新町店の基本情報

住所熊本市中央区新町2-13-17
電話番号096-276-8088
FAX096-276-8087
instagramhttps://www.instagram.com/hinokuniyakkyoku/
営業時間平日:9:00~18:00、土曜:9:00~13:00
休業日日・祝日
駐車場店舗前1台

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