競輪選手の夢が断たれた2日後、繁華街の飲食店で働き始めた青年がいました。
株式会社さだめ代表取締役・曽我大樹さん。飲食業で年商6億円規模の事業を生み出し、テレビ放映をきっかけに1時間で約3,000万円を売り上げた経験を持ちます。
しかし本人は「儲けるの下手なんですよ」とあっさり言います。
今、曽我さんが力を注ぐのはAI活用支援。飲食業界出身の人間がなぜAIなのか。話を聞くと、見た目ほど唐突な転身ではありませんでした。
競輪選手の夢が断たれた日——2日後の決断

曽我さんの原点は、競輪の世界にあります。
9歳上の兄がプロの競輪選手でした。その背中を見て育ち、保育園の卒園文集にはすでに「競輪選手になりたい」と書いていたといいます。
「兄が当然のようになったんで、簡単になれるもん!ぐらいちっちゃい頃から思って。それを目標にしてやろうと思ってたってことですね」
競輪選手になるには、全国から志望者が集まる養成学校の入学試験を突破しなければなりません。約1,000人が受験し合格するのは50人ほど。
曽我さんも挑戦しましたが、実力の壁に阻まれ、20歳でその道は閉ざされました。怪我ではなく、純粋に実力で。
「落ち込んで2日ぐらいで、もう働かなきゃなって。21なんで。もう周りみんな仕事してたり、大学に行ったりしてたんで。」
体力だけあります
競輪の修行中は丸坊主で遊びも禁止。実家で暮らしながら練習に明け暮れる日々でした。夢が断たれた後、曽我さんが目をつけたのは繁華街の飲食店です。
「すぐ稼げると思ったのが飲み屋のボーイさん。体力だけあります!って言って。その日から働きはじめました」
そこからわずか1年後には独立。ただし、綿密な事業計画があったわけではありません。
「独立もそんな計画的にしてませんでした。独立2ヶ月ぐらい前にふと、やろうかなと思って。なんとか準備して独立してみたいな感じですね。飲み屋さんは比較的簡単に独立できるので、お金もそれほどかりませんでした」
「聞こえはいいですけど」——出版社への転身と馬刺し専門店

24歳の頃、曽我さんは出版社にヘッドハントされます。ただし本人の説明は、もう少し地に足がついたものでした。
「ヘッドハントのお誘いがあったのは、飲食店のお客さんで出版社の社長だったんですよ。その社長が飲食事業をしたいと言ってて。当時、私が店長として働いていたときにうちの新規事業やってくれないかって声かけてきたと。」
その出版社は飲食事業を持っていませんでした。曽我さんがゼロから立ち上げることになります。曽我さんにとって、居酒屋も初めての挑戦でした。
もっとやりゃいいのに…と思ったことを実現する
目をつけたのは、熊本の馬刺し市場でした。先駆者がすでに道を切り開いていたにもかかわらず、高い需要に対して専門店に挑戦するプレーヤーがほとんどいなかったのです。
「先駆者がもう切り開いてる道があったんですけど、【馬刺しの専門店はできない】と思って誰もやってなかったので、馬刺し専門店をやってみたと。そしたらめっちゃ当たったっていう」
「馬刺しは熊本の良さなんで、もっとやりゃいいのに!って話ですよね。超繁盛店でしたよ」
馬刺し専門店は5年間で年商6億円規模に成長。曽我さんが退社した後も、その店は繁盛を続けています。
「ないものを作りたい」——承認欲求とギャンブル
独立した曽我さんは、300円の日本酒バー・黒毛和牛の一枚焼肉・掛け持ちスタッフだけで運営するスナックなど、コンセプトの尖った店を次々と立ち上げていきます。
東京でようやく流行り始めた業態を、いち早く熊本に持ち込むスタイルでした。曽我さんは自身の動機をこう振り返ります。
「承認欲求が強いのかもしれない。ないものを作りたいっていう欲求が強いんでしょうね。ギャンブルみたいなものですよ」
馬刺し専門店の成功体験がありながら、同じ業態の2号店を出すという選択はしなかった。代わりに、まだ誰もやっていないコンセプトで勝負し続けました。
「コアな人にめちゃ刺さるみたいなお店ですね。ここ気に入ったらここしか来ないみたいなお客さんは来るですけど、一般に認知取るのは難しい」
日本酒バーは今もかつての常連から「もう一回作ってよ」と言われるほど愛されましたが、そもそも熊本で日本酒を飲む人の母数が少なかった。刺さる人には深く刺さる。しかし広くは届かない。その繰り返しでした。
仕組み化の限界——コロナが暴いた組織の脆さ

半年に一度のペースで新業態を立ち上げていた曽我さん。店長にオーナーシップを持たせる形で組織の拡大を図りますが、コロナ禍でその構造の脆さが一気に露わになります。
「仕組み化してるようでしてなかった。してるつもりだった」
社員がついてこれていなかったことも、振り返っています。
「もう社員はついてこれてなかったです。社長何考えてるかわかんないみたいな感じで」
自分自身の特性についても、こう語っています。
「切り替え早いっていうのはメリットでもあり、継続できないというデメリットでもある。一つのことを突き詰められない」
次々に新しいことに惹かれ、こっちが楽しそう、こっちが面白そうと走り続ける。半年に一度の新業態立ち上げは、その裏返しでもありました。
1時間で3,000万円——テレビがもたらした爆発と撤退

コロナ禍の最中、曽我さんは「プレメルケーキ」というEC事業に携わっていました。Webでしか購入できないこのケーキが、マツコ・デラックスの番組で紹介されます。
※曽我さんはこの事業の代表ではなく、株主兼アドバイザーとして関わっていました。
「夜だけで1時間ぐらいで3,000万円ぐらい売れましたから。本当に。頭痛止まんなかったですね」
注文は10ヶ月先まで埋まりました。しかし当時の製造能力は1日250〜300万円分。「ええやと思って」受注を受け続けた結果、生産が追いつかない事態に陥ります。
これを商機と見て工場を移設し、生産能力の増強に踏み切りました。しかし半年後、テレビがもたらした一過性の需要は収まり始めていました。
「経費は増え出したが売り上げは減り出した。クロスするところで、さあどうしようかみたいな」
ここで曽我さんはこの事業から手を引きます。
セブン-イレブンとのコラボも実現しています。きっかけは、発送先リストにセブン-イレブンの名前があったこと。「ダメもとでこっちからメールした」ら、商品開発の話が進んだといいます。
テレビでの爆発的な売上に、セブン-イレブンとのコラボ。しかし曽我さんはこう振り返ります。
「突き抜けて儲かるはずたったのに、蓋を開ければそんなに―儲けるの下手なんですよね」
「発注先がAIに変わっただけ」——出版社時代の伏線

飲食、ECと事業を渡り歩いてきた曽我さんが、2023年頃からAI活用支援に力を入れ始めます。
畑違いに見えるこの転身ですが、実はかつて在籍していた出版社にはウェブ制作の部門がありました。
曽我さんは飲食事業を軌道に乗せた後、人事も経理も含めた全部署を横断して見るポジションに就き、ウェブ制作の案件営業からエンジニアへの発注まで手がけていたのです。
「手を動かしたわけじゃないけど、プログラマーとかいたので。案件を営業で取ってきてプログラマーやデザイナーに伝えるとかやってたんで、意味はわかってるっていう」
「それを今人からAIに言ってるだけ。今までデザイナーとかプログラマーにこうやって指示してたのを、AIに今発注してる。発注先がAIに変わっただけ」
データベースの構造、フロントエンドとバックエンドのつなぎ込み、システム全体の成り立ち。それらを理解しているからこそ、AIへの的確な指示ができる。
出版社での5年間が、今のAI事業の土台になっています。
「なんか飲食業から急にAI事業が出てきたような風に思われるんですけど、実はもう出版社時代にめっちゃ何でもしてるっていうだけです」
先に作って、触ってもらう——AIだからできる逆転の営業
AI事業で曽我さんが取り入れているのが、「先に納品してしまう」というスタイルです。
きっかけは、同じくAI開発をしている仲間からの一言でした。
「AI事業で仲良くしてる方が『先に作った方がいいっすよ』って。その方が案件バンバン取ってたんで、自分も真似てそうしようかなって」
従来のシステム開発では、仕様を固めるだけで1ヶ月かかることも珍しくありません。しかしAIを使えば、その1ヶ月で納品まで終わらせることができます。
「先にシステムを作ったら喜ぶ。みんな喜ぶんですよ。え?もうこれ触れられます?って」
気に入ったら買ってもらう。気に入らなければそれまで。AIで作る工程は工数がかからないため、先に作ってしまってもリスクはほとんどない。
実例のひとつが、不動産会社向けに開発した契約書の自動生成ツールです。従来の開発手法であれば1,000万円規模の見積もりになるところを、大幅に圧縮して提供しています。
しかも、このツールは発注元の企業だけでなく、同業他社にも販売できる「共同開発」の形をとっています。
「その会社さんだけじゃなくて、一緒に共同開発で売れるものを作っていけると意味があるかなと」
作るコストが低いから、先に納品できる。先に納品するから、相手が実物を触って判断できる。判断できるから信頼が生まれ、横展開につながっていきます。
熊本にいる理由——コミュニティから生まれるビジネス

AI事業は場所を選びません。極論、どこにいてもできる仕事です。
それでも曽我さんが熊本に腰を据えているのは、守成クラブ熊本ヒルノカイの代表を務めているからでした。
「守成クラブ熊本ヒルノカイの代表してるんで、熊本にいる意味はそこにあるのかなと」
先ほどの不動産会社向けツールも、このクラブの会員とのつながりから生まれた案件です。
「その熊本にいる人と出会って、一緒にその人が全国に商品を売ってくれればいい話なんで」
自分が全国に営業をかけるのではなく、地元の経営者が持つ事業をAIの力で加速させ、その経営者自身が全国に展開していく。
曽我さんが熊本にいることで、誰かの事業が動き出す。そのサイクルを作ることが、今の軸にあります。
フランチャイズ業界の透明化——もうひとつのライフワーク
AI事業と並行して、曽我さんはフランチャイズ業界の情報透明化にも取り組んでいます。
自身がフランチャイズに関わる中で、加盟者側と本部側の間にある情報の非対称性——開示されない情報の多さに疑問を感じたことがきっかけでした。
口コミサイトの運営を通じて、加盟を検討する人が正確な情報にアクセスできる環境を整えようとしています。
「儲からなくてもいいから、これライフワークとして長い活動としてやっていっていいかなと」
収益よりも意義を優先する活動として、長期的に続けていく構えです。
「なんでお前それを今やってるんだ」と言われる未来
「去年の6月はもう終わったと思ってましたからね。もう死んだと思ってましたけど、なんとか生きています。今も」
取材の終盤、曽我さんはさらりとそう口にしました。会社の存続が危ぶまれるほどの局面を、つい最近くぐり抜けていたのです。
10年後の自分について尋ねると、少し考えてからこう答えました。
「その時のまた全く違う、私じゃないと取り組めないリスキーなことを多分挑戦して人に提供しているんだと思います。なんでお前それを今やってるんだっていうこと」
周囲からは「5年早いんだよ、ずっと」と言われ続けてきたといいます。馬刺し専門店も、コンセプト型の飲食業態も、AI活用支援も。
手をつけた時点では理解されず、世の中が追いついた頃には、もう次に向かっている。
「5年早いことをずっとやって、まだお前やってんだって言われてると思います」
5年早いと言われるのは、裏を返せば5年間は理解されないということでもあります。それでも曽我さんは、次の「まだ誰もやっていないこと」に向けて、もう動き始めています。
株式会社さだめの基本情報

| 住所 | 〒861-4131 熊本県熊本市南区薄場1-15-22 |
| 事業内容 | 生成AIを活用した事業支援 ホームページ・Webサービス開発 社内DX支援・業務ツール開発 SNS運用代行・マーケティング支援 AI活用研修・教育事業 |
| ホームページ | https://sadame.info/ |


コメント